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末武工業所|金近 右太さん・西村 雄一さん・魚谷 琉那さん

仕事・遊び・本気。周南市の工業の力を世界へ!

末武工業所|金近 右太さん・西村 雄一さん・魚谷 琉那さん
01.ヒト

代表取締役社長 金近 右太(カネチカ ユウタ)(中央)

1976年山口県下松市生まれ。末武工業所の代表取締役社長(3代目)。小さなものから大きなものまで手がけられる自社の金属加工における高い技術力に誇りを持つ。2024年、新たな事業としてアウトドアブランド「匠美TAKUMI JAPAN」を設立し、職人の技術力と日本の美「葦手絵(あしでえ)※」を活かしたこれまでにない焚き火台を開発・販売。趣味はスキンケアと読書。

総務部課長 西村 雄一(ニシムラ ユウイチ)(左)

1970年山口県防府市生まれ、結婚を機に周南市に移住。長年にわたるプラント勤務を経て、2010年に安全衛生推進者として末武工業所に入社。4年前より総務課長を務める。金近社長から新しい挑戦として自社製品開発の話を受け、中心メンバーとして焚き火台の開発に取り組む。趣味は筋トレと洗車。目標は「山奥で夫婦仲良く老後生活を送ること」。

総務部 魚谷 琉那(ウオタニ ルナ)(右)

2004年山口県周南市生まれ。小学から高校まで野球一筋。桜ヶ丘高校を卒業後、末武工業所に入社。入社を決めた理由は、日鉄ステンレスに勤める父親から「末武工業所はいい会社!」と勧められたため。現在は総務部に在籍し、焚き火台の広報も担当。TikTokでは2万回再生の実績を誇る実力者。休日は学生時代の友だちと集まってワイワイ過ごすのが定番。

1955年創業の末武工業所は、大型鉄鋼構造物製造から、ステンレス・特殊金属の加工・販売を行う金属メーカーで、モットーは「仕事・遊び・本気」。ジムや習い事などの費用を補助する「自己研鑽手当」や、アウトドアや婚活イベントへの参加にも手当が支給されるなど、心身ともに健康でやりがいを感じられる職場環境づくりのためのさまざまな取り組みが高く評価され、2024年11月に山口県が認定する「やまぐち健康経営企業」のうちでも特に優秀な企業として表彰されたばかり。高い技術力を生かしたものづくりだけでなく、健康経営を第一とする企業としても注目されています。

2024年に設立した新事業「匠美TAKUMI JAPAN」では、アウトドア製品を中心に高度な金属加工テクノロジーと熟練の職人による精密な加工により、難易度の高い金属加工製品を開発。中でも日本の伝統芸術「葦手絵」を取り入れ、職人の技術とファイバーレーザー加工機を駆使して作り上げる鉄製の焚き火台はSNSで瞬く間に拡散され、世界26ヵ国に向けて販売される米国のECモール「Qoo10」でも扱われるように。金近社長をはじめとする従業員の熱い想いが込められた焚き火台は、日本の伝統美と周南市の工業の力を世界に伝える存在として熱い視線が注がれています。

※葦手絵(あしでえ)…平安時代に流行した文字と絵を組み合わせた装飾的絵模様の一つ。

02.モノとコト

ピンチが挑戦を生んだ! きっかけはコロナ禍と取引先一部設備の休止発表。

2024年、末武工業所はアウトドア用品を中心とした金属加工製品の開発・販売を手がける新たな事業として、アウトドアブランド「匠美 TAKUMI JAPAN」を設立しました。主力商品は、自社で開発した鉄製の「焚き火台」。職人の熟練技を生かした美しい形状と、ファイバーレーザー加工機を駆使して彫り込んだ繊細な日本の伝統芸術「葦手絵」が特徴のこの焚き火台は、日本の技術と文化を伝える逸品として、世界26ヵ国に向けて販売される米国のECモール「Qoo10」でも取り扱われています。

1955年創業の末武工業所は、長年、周南コンビナートを支えてきた金属メーカーの老舗。これまで多くの産業機械に携わり、実績を積んできました。それなのに、なぜ突然一般消費者に向けた製品の開発に挑んだのでしょう? その謎を解明すべく、プロジェクトメンバーの御三方にお話をお聞きしました。

金近社長:

コロナ禍と取引先一部設備の休止発表、当社の仕事も減ってしまうことが予想されました。仕事が減るということは、高い技術を持つ職人の手が空くということ。それはもったいないと思い、自社製品の開発に挑戦することにしました。

「職人の技術を活かしたい」、そんな思いから始まった末武工業所の新しいプロジェクト。数ある製品の中から焚き火台に行き着いた理由もお聞きしました。

金近社長:

外せない条件は、当社のできる範囲でやること。つまり、背伸びした製品ではなく、地に足がついているものであること。その条件のもと、実用的で、かつ職人の技と当社が誇るファイバーレーザーテクノロジーが活かせ、かつ素晴らしさがわかりやすく伝えられるもの、鉄鋼技術への関心を高められるものを目指すことにしました。ならば、目を引くもの、美しいものがいいと考え、火の力を借りることでより芸術性が高まる焚き火台ならぴったりだと思いました。当時はコロナ禍のキャンプブームでしたから、タイミング的にも申し分なかったんです。

西村さん:

社長から焚き火台を作ろうと言われ、参考にと渡された写真にはとても複雑な形の焚き火台が写っていました。アウトドア用品というよりも芸術品。「いやいや、無理だろう…」と内心は思いましたが、一社員ですからNOとは言えません(笑)。とにかくやってみることにしました。

 

開発メンバーは7人。職人とアウトドア好きで構成。

これまで手がけてこなかった一般消費者に向けた自社製品の開発。「まさにゼロからのスタートでした」と西村さんは振り返ります。

西村さん:

まずはメンバー探しから始めました。集まったのは私を含めた7人。職人だけでなく、アウトドア好きの社員にも加わってもらいました。職人目線だけでなく、アウトドアで他社製品を使う機会の多い社員も交えてアイデアを出し合うことで、実用性の高いものができると考えたからです。

金近社長:

原型ができるまで、すごく早かった記憶があります。熱による変形を防ぐために板圧を変えながら試作を重ね、何度目かで完成した原型は、形の美しさと使い勝手の良さを兼ね備えたもの。けれど、ここからが大変。みんな職人気質なのでデザインに疎く、どんな模様を施すのがベストなのかさっぱりわからないんです。

西村さん:

普通の絵で他社に勝てるはずがない、さあどうしようか…という時にたまたま夕方のニュースで目にしたのがTOMOKO.さんの作品でした。TOMOKO.さん(篠塚智子さん)は東京で活躍する岩国市由宇町生まれの葦手絵師で、2022年夏にはパリのジャパンエキスポにも出展。葦手絵とは、文字と絵を組み合わせた装飾的絵模様で、平安時代にはあったとされる日本の伝統芸術の一つです。

【TOMOKO.さん公式インスタグラム】

https://www.instagram.com/tshinozuka/

TOMOKO.さんの作品に一目惚れした西村さんは、すぐにInstagramからメッセージを送信。驚きの行動力です。

西村さん:

やり取りをするうちに、TOMOKO.さんが「日本の美と技を世界へ」という思いのもと活動されていることがわかり、職人の技術力や日本の工業の力を発信したいという自分たちの姿勢と同じだと感じました。「ものすごくいいマッチング。きっといいものができる!」と確信しました。

 

職人の技が光る美しい焚き火台はSNSで世界へ。

依頼から数ヵ月後、TOMOKO.さんから図案が届きました。約600年前のお伽草子「浦島太郎」の世界観から生み出された「竜宮絵巻」です。ここからは、いよいよ職人とファイバーレーザー加工機の出番です。

金近社長:

TOMOKO.さんが描いた葦手絵をファイバーレーザー加工機で鉄板に彫り込んだ後、職人が筒状に加工していきます。しかし、ただの鉄板を加工するのと、繊細な彫り込みが施された鉄板を加工するのとでは難易度は桁違い。20年以上のキャリアを持つ当社の職人だからこそ美しく仕上げられるのです。

細かい葦手絵を彫り込んだ鉄板を丸く筒状に加工する技術は企業秘密。職人たちの試行錯誤の末に辿り着いた、他社には到底できないものなのだとか。さらに、一つひとつ手作業で削り上げる仕上げの作業も高難易度。美しく完成された焚き火台の姿から、末武工業所の職人のレベルの高さがうかがえます。

西村さん:

試作を重ね、約5ヵ月かかってようやくできた完成品に初めて薪をくべて火をつけた時、浮かび上がる葦手絵の美しさに圧倒されました。メンバー一同「やった!!!」という気持ちでしたね。完成後の2023年10月20日、西村さんが焚き火台に火が灯る様子をInstagramに投稿すると、テレビやラジオ、新聞等から声がかかり、瞬く間に拡散されました。その後、クラウドファンディングのプラットフォームサイト「Makuake」にて先行販売にも挑戦。するとInstagramへの投稿から10日ほどたった10月30日に思いもよらないメールが届いたのです。

金近社長:

アメリカの金属鉱業専門誌「Metals & Mining Review」から突然メールが届きました。なんと、アジア環太平洋地域の金属形成企業トップ10として当社を紹介したいという連絡だったのです。最初は新手の詐欺を疑いました(笑)。苦手な英語を駆使してやり取りし、最終的には雑誌の表紙も飾らせていただきました。

選出された理由は、「伝統と最先端のイノベーションの融合」。職人の技術と日本の伝統美、ファイバーレーザーによる緻密な加工が高く評価されたのです。ちなみに、これまで国内企業でトップ10に入ったのは兵庫県の金田商事の受賞に続き2例目なのだとか。

 

周南市の工業の力を世界に発信していきたい。

末武工業所では、焚き火台をもっと多くの方々に知ってもらうため、周南市の工業の力を世界に発信するために広報にも力を入れています。その広報を任されているのが、2023年4月に入社した魚谷琉那さんです。

魚谷さん:

「末武工業所はすごくいい会社だ」と父に言われて入社を決めたのですが、入社後に焚き火台を見て父の言葉が腑に落ちました。働く環境や人間関係の良好さはもちろんですが、こんなに素晴らしい製品を生み出せる発想力と技術力こそが父に「すごくいい」と言わしめた理由なのだと。そして、この焚き火台の広報に携われることに誇りを感じています。

魚谷さんは西村さんのもとで、これまでさまざまな広報活動を展開してきたそうです。

西村さん:

各種イベントへの参加、TikTokの運営、市長表敬訪問の同行など、おそらく他社では入社間もないキャリアでこんな経験はしないだろうということを彼には経験してもらっています。そして、彼の若い発想力が焚き火台の認知度向上につながっているのは間違いない。我々も助けられていますよ。心強い仲間として一緒に頑張ってもらっています。

魚谷さん:

入社して焚き火台に携わるようになって、私自身大きく成長したと感じています。一番の大きな変化は「周南市の工業の力」について考えるようになったこと。いつの間にか社長や西村さんと同じ「周南市の工業の力を世界に発信すること」が私自身の目標にもなっていました。そして今は、周南市の子どもたちにもっともっと工業に魅力を感じてもらうことも目標に加わっています。

最後に、金近社長に末武工業所の焚き火台の魅力を教えてもらいました。

金近社長:

焚き火の光と影を通して、美しい模様を作り出し、四季折々の花や風景、神話やお伽噺を演出しているところと、日本の伝統文化と自然の美しさに弊社のファイバーレーザーテクノロジーを組み合わせているところが何よりの魅力。これは当社のキャッチコピー「仕事・遊び・本気・末武」のもと、働きやすい環境だからこそ実現できる技術力と、遊び心のある新しい常識や発想があるからこそ成せたものだと思っています。現在、焚き火台は円筒タイプの「竜宮絵巻」、「四季の風」、組立タイプでコンパクトな箱型の「火樹銀花」、「風林火山」を展開中。さらに「匠美TAKUMI JAPAN」として第2弾のプロジェクトも動き始めているのだそう。

2024年11月、末武工業所の焚き火台は、山口県産業技術振興奨励賞・山口県産業技術センター理事長賞受賞。海外への展開も視野に入れ、さらに躍進しようとする末武工業所から今後も目が離せそうにありません。

03.インタビュー

三人三様の周南市。根底にあるのは「周南市愛」。

下松市に生まれ、現在は周南市にお住まいの金近社長、防府市に生まれ、周南市に移住してきた西村さん、生まれも育ちも周南市の魚谷さんにそれぞれの周南市を語っていただきました。

●周南市はどんなまち?

金近社長:

私の中の周南市は、やはり大手企業が並ぶ工業地帯。周南市と光市で日本のステンレスの約7割を作っているんですが、あまり知られていないのが残念です。iPhoneとかApple Watchの一部になっていたこともあるのに…。従業員にはもちろんですが、周南市の子どもたちにも知ってもらいたいです。

魚谷さん:

実は私も先日社長のお話で知って驚きました。私のような周南市生まれ・周南市育ちでも知らないんですよね。この事実をしっかり伝えていくのも私の使命の一つだと思っています。

西村さん:

私が周南市を一言で表すならば「ものづくりのまち」。いわゆる周南コンビナートですから。ものづくりのまちだけあって、いい意味で仕事上の世間は狭い。いろんな企業と連携が図りやすいのがいいですね。プライベートの関わりも濃いと思います。つながりというか、絆が生まれやすい温かいまちだと感じています。

魚谷さん:

私にとっては楽しいまち。社会人になってまだ2年経たないので、学生時代の印象がメインですが、とにかく楽しく過ごしてきました。就職して社会人になったら周南市への印象って変わるかなと思っていましたが、全く変わらず楽しめています。末武工業所が自由な社風なのも理由の一つですが、やっぱり周りの人が優しくて、温かくて…。西村さんがおっしゃっていたみたいに関わりの濃さが居心地の良さにつながってるのかなと思います。

●周南市の魅力は?

魚谷さん:

友だちとプライベートでワイワイできる場所があること。とは言っても、友だちの家に集まっていることが多いんですけど(笑)。でも社会人になって視点が変わったり、行動範囲も広くなっていると思うので、この先もっともっと好きなところが見つかると期待しています。

金近社長:

生活するのに困らない、意外と便利なところですかね。徳山駅はすっかりキレイになってスタバもできて、最近では徳山デッキもできましたし。働きやすいし、生活しやすいところは、周南市の大きな魅力だと思います。

西村さん:

もう26年周南市に住んでいますが、いろんなものが揃っているのが魅力ではないでしょうか。大型スーパーもコンビニも小さな商店も公共施設も病院も…と、どこに行くにも距離が近いと感じています。車で広島へもすぐですし、徳山駅で新幹線に乗れば県外にも行きやすい。アクセスのいい便利な場所でもありますね。

魚谷さん:

学生の頃は遊ぶところが少ないから周南市を出たいと思ったこともありますが、今は地元に残って正解だと思っています。地元で就職した友だちも結構多くて、想像以上に楽しくやっています。

西村さん:

私は採用担当もしているので、周南市やその近辺の高校を訪問するのですが、最近は地元に残りたい子どもたちが増えているようです。周南市が子どもたちに愛されている証ですね。

 

●周南市のお気に入りの場所や思い出の場所は?

金近社長:

鼓海から見る工場夜景が好きですね。すごく美しくて、私の中では次の世代に残したい景色です。昔はよく市内の花火大会に足を運んでいました。懐かしい思い出です。

西村さん:

自宅前に広がる田園風景が気に入っています。周南市は同じ市にいながら華やかな場所もあれば、のどかな場所もある。私は山間部に住んでいるので、仕事とプライベートが明確に分かれ、毎日にメリハリがついています。思い出の場所は妻と出会った長田海岸と、妻と一緒に弁当を食べた米泉湖。妻との出会いがなければ周南市に移住することもなかったので、とても記憶に残っています。

魚谷さん:

太華山かな…。それと、とおの山も思い出の場所です。小学生の頃から毎年友だちと登っていました。夜もみんなで集まったりしていたので、とおの山からの景色は思い出深いです。

 

●周南市に期待することは?

金近社長:

若い方が自分を表現できる場所がもっといろいろ増えたらいいかなと思います。やっぱりまちを元気にするには若者の力が必要ですから、その若者がもっと生き生きと暮らせるまちになることを願います。

西村さん:

私も若い方々に「周南市はいいまちだ!」と思ってもらいたいですね。住むのにも、働くのにも、遊ぶのにもいいところだって地元に残ってもらえるようなまちになると、もっと活気が出るんじゃないでしょうか。

魚谷さん:

私は今の周南市が好きですし、この先もずっと周南市にいるつもりですが、欲を言えばもっと遊ぶところが増えたら嬉しいです。でも派手になって欲しいわけじゃなくて、ほっこりと和める周南市らしい温かさは今のまま変わらずいて欲しいです。

それぞれの言葉で周南市について語る御三方。ただ、仕事を通じては同じ想いを抱いていました。

金近社長:

周南市の子どもたちに工業の素晴らしさを伝えていけたらいいなと思っています。周南市の工業の力を誇りに想い、より地元愛が増してくれたらこんなに嬉しいことはありません。そのためにも焚き火台をもっと広めたいですし、新しい挑戦もしたいです。

 

金近社長の言葉に笑顔でうなずく西村さんと魚谷さん。末武工業所の焚き火台はまだ夢を乗せて走り出したばかり。周南市の工業の力を世界へ、そして、周南市の子どもたちへ伝えるために。

04.関連リンク

記事:藤井香織 / 写真:川上 優

執筆時期:2024年9月

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