県内外から最大5万人が訪れる観光名所に!大道理芝桜まつり
周南市の中心部から車でおよそ25分。大道理鹿野地(おおどおりかのじ)地区では、平成21年から、およそ1ヘクタールの棚田の斜面を利用して12万株の芝桜を植えています。「芝桜の里」として知られる同地区。毎年4月からの開花時期に合わせて「大道理芝桜まつり」が開催されており、広島や北九州からバスツアーの観光客も来場するほど。多いときで1日5,000人、シーズン通して最大5万人が訪れる名所として人気を呼んでいます。新型コロナウイルス感染拡大防止のため2年間中止していましたが、昨年3年ぶりの開催となりました!今年も皆さまをお待ちしています。
4月中旬、大道理鹿野地地区は白やピンク、紫など、色鮮やかな芝桜がほぼ満開を迎え、「かのじ」や「絆」の文字、「飛び立つツル」のシルエットが描かれます。
この美しい芝桜を維持管理するのは、大道理地区百笑(ひゃくしょう)倶楽部のみなさん。周辺農家6軒を中心に結成されたグループです。
会長の兼平 好(かねひら よしみ)さんは、「芝桜を植え始めた頃はいろいろな意見がありましたが、このプロジェクトの目的を丁寧に説明して回り、なんとか集落の理解を得ることができました。一般に公開し始めたのは芝桜を植えて3年目くらい。地域の協力なしにはここまで大規模にすることはできなかったと思います。」と当時を振り返ります。
防草シートと芝桜で重労働を軽減
大道理鹿野地地区は、1995年度までに農用地有効利用モデル集落整備事業によってほ場(田や畑、農地のこと)が整備されています。ほ場を維持するためにネックとなるのが年5回の草刈りです。田んぼの法面(実際に宅地として使用できない斜面部分)は最も高いところで高さ9メートル。高齢化が著しい中、草刈り機を背負って急勾配での人力作業は大変な重労働です。そこで思いついたのが防草シート。しかし、緑色の防草シートは、見た目は良くても値段が高い。黒い防草シートは、値段は安いが見栄えが悪い。なんとか美観を保てないだろうか…。アイデアとして出てきたのが黒い防草シートを敷いてから芝桜を植える方法でした。
「芝桜を植えれば、黒色の防草シートを隠せるので見栄えがいい上、防草シートの劣化も抑えられる。周辺住民の協力を得て、整備した田んぼの法面全てに芝桜を植えるプロジェクトが始まりました。」
地域内外の協力を得て美観を維持
この美しい景観を維持していくのは容易ではありません。芝桜が大きく成長するまで、手作業での草取りが年に5回は必要です。根がついていない花や枯れてしまった花を埋めるために、補植作業も待っています。さらに、防草シートは10年を過ぎれば張り替えなければいけません。芝桜の根がびっしりと張っているため、シートをはがすのは機械での作業。新しく敷くシートに打つ杭は、伐採した竹を使って手作りするなど、とにかく多くの人手が必要です。
「ありがたいことにプロジェクトの参加メンバーは、地域内外から協力者が20名、賛同者が30名と、年々メンバーが増えています。みなさんが手入れをしてくださるおかげで、毎年きれいな花を咲かせることができます。」
熱心に手入れをしてくださっている多くの方々に感謝の気持ちでいっぱいになります。
随所に宿るおもてなしの精神
近くの山には展望台が設けてあり、里山全体を見渡せるようになっています。取材日、ピクニックを楽しんでいたグループに、「今日は天気が良いからテントを出してあげようか?」と声をかける兼平さん。「来た人に喜んでもらいたい」というサービス精神がうかがえます。
シーズン中は、至るところに手作りのベンチや撮影スポット、トイレが設置され、売店では桜大福やホットコーヒー、とれたてのタケノコなどの販売も行っています。
「芝桜の店」の井上佳明さんは、「大道理地区百笑倶楽部のみなさんが頑張っているから、自分たちにもできることはないだろうかと思って出店を始めました。せっかくここまで来くださったのだから、のんびり過ごしてくださいね」と笑顔で話してくださいました。共に地域を盛り上げていこうという温かい気持ちが伝わってきます。
地域に新たなプレーヤーも参画!
2022年2月、大道理地区一帯は、農林水産省が全国の優れた棚田を認定する「つなぐ棚田遺産」に選ばれました。これは、地域ぐるみで棚田の保全や棚田を活用した地域づくりを続けていることなどが評価された証です。
「芝桜といえば大道理と言っていただけるほど認知度が上がってきました。やはりたくさんの人に来ていただけるとやりがいが大きいですね。地域への誇りと愛着がさらに増しました。遺産ともなれば、絶対に未来に残さなければなりません。そのためには若い力が必要です。」
6年前に大道理地区に引っ越してきた切戸章平さんは、“周南版※トキワ荘”として知られ、漫画家デビューを目指す若者たちが活動する「漫画工房 樹本村塾」のメンバーの一人。地域内の古民家で創作活動を続けながら、「大道理芝桜まつり」の手伝いなど、地域活動にも積極的に参加しています。
※東京都豊島区に1952年から1982年にかけて存在した木造2階建アパート。手塚治虫、藤子不二雄、赤塚不二夫ら著名な漫画家が居住していたことで知られ、漫画の「聖地」となっている。
「地域住民のみなさんが温かく迎えてくださったのでとても居心地がいいです。お世話になりっぱなしなので、地域のためにできる限りのことをしたいと思っています。」
切戸さんのほかにも、大道理で活動を続ける「漫画工房 樹本村塾」のメンバーがいます。さらに、同地区に都心からの移住者を迎える予定との嬉しいニュースも。少しずつですが地域に新たな活力が生まれているようです。
美しい景観を未来へつなぐために
最後に、兼平さんにこれからの目標を聞いてみました。
「一番の目標はこの景観を絶やさないことです。もちろん夢もありますよ! 向こうの山からワイヤーをつないでゴンドラを設置してみたいですね。これからも、人とのつながりを大事にしながら、この美しい景観を未来に残していきたいと思っています。」
兼平さんの笑顔の向こうに明るい未来が想像できました。
今回の取材を通じて、大道理地区百笑倶楽部をはじめとする地域の方々の地道な活動とご苦労を感じるとともに、隅々まで行き届いたおもてなしの心に感動しました。
2023年も4月1日から4月30日まで開催予定です。ぜひ芝桜を見に行ってみてください。なお、来場時に管理費の一部として、緑化協力金200円の寄付(2022年開催時)を呼びかけているのでぜひご協力を!
大道理地区百笑倶楽部
〒745-0242 山口県周南市大道理1332番地
TEL:0834-88-1830(大道理夢求の里交流館)
http://shunan-odori.jp
記事:小野 理枝 / 写真: 嶋畑 勤
執筆時期:2023年3月