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PH GRAPHICS(PHグラフィックス)|福永 みつおさん

暮らしをもっと合理的に、もっと豊かに。デザインの力で人を幸せにしていく。

PH GRAPHICS(PHグラフィックス)|福永 みつおさん
01.ヒト

1968年、山口県熊毛郡平生町生まれ。下松市在住。高校を卒業後、福岡の日本デザイナー学院九州校に進学。卒業式を待たずに東京のデザイン事務所に入社。1993年に退社後帰郷。印刷会社を経て33歳で独立。下松市に事務所を構える。2002年、下松市の事務所はたたんで周南市PH通りに「PHグラフィックス」を設立。2007年、おいでませ山口国体・山口大会(2011年)のマスコットキャラクターとして「ちょるる」をデザイン。その後、「山口県PR本部長ちょるる」のさまざまなバリエーションを300体以上制作。主な仕事に、「山口ディスティネーションキャンペーン」のアートディレクション、「山口情報芸術センター」「シンフォニア岩国」「周南市立美術博物館」の展示会告知ポスター、「Netz Toyota Yamaguchi」の会社案内、「中国警備保障」「コープやまぐち」のキャラクターデザイン、「自然派菓子工房アン・シャーリー」「徳山COFFEE BOY」のパッケージデザインなど。自由な発想で常に新しいビジュアルを追求し、斬新なアイデアをカタチにしている。

02.モノとコト

子どもたちに生きた学びを

周南市立岐陽中学校では、2020年度から地域で活躍するプロのデザイナーの福永みつおさんを講師に招いて美術科の授業を行っています。これは、学習テーマを実社会と結びつけることで、子どもたち自らが課題を見つけて解決するアクティブラーニングの取組です。

 

2020年度は、中学1年生が周南市徳山動物園の成り立ちや歴史を調査し、多種多様な動物のピクトグラム(情報を誰にでも伝わりやすいデザインに単純化したサイン)を制作。完成した作品は周南市徳山動物園内「展示館」や周南市立徳山駅前図書館で展示されました。

翌年、2年生になった生徒は、自分たちの住む周南市の魅力を考えデザインすることで周南市に貢献したいとの思いから「周南市の魅力を伝えるデザイン」を制作し、周南市のシティプロモーショングッズの製品化につなげるプロジェクトを展開しました。
そして、ついに2022年11月21日に生徒たちが制作したデザインを元に、新しいシティプロモーショングッズ「周南市オリジナルブックカバー」が完成。周南市内の書店で配布が行われました。

 

周南市をテーマにデザイン

「夢・志・応援プロジェクト」発足のきっかけは「瀬戸内デザイングランプリ」。山口県と香川県内の小学校・中学校・高等学校の児童・生徒を対象に2016年から開催されているポスターデザインコンクールで、毎年およそ1,500点の作品応募があり、山口県・香川県の出身・在住の現役デザイナーが審査員を務めています。これに関連して県内各地で出前授業が行われており、このたび岐陽中学校の講師として抜擢されたのが、周南市を拠点に活躍するグラフィックデザイナー・福永みつおさんです。

「美術科の先生と学習テーマを協議するなかで、周南市の観光や物産と結びつけてはどうだろうかという話になりました。実際の授業は、思考の流れをとらえやすいように黒板にプロセスを書いてから進めます。子どもたちはこちらが思いつかないようなビックリするデザインをつくってくれるので、毎回どんなデザインが生まれるのか楽しみです。」

 

これからの時代に必要なのは「デザイン思考」

プロジェクトのねらいは、探究的な活動を通じて子どもたちに「デザイン思考」を養うこと。デザイン思考とは、前例のない課題や未知の問題に対して最適な解決を図るための思考法です。
「デザインという言葉がつくことから、我々デザイナーやクリエイターだけが使う思考法のように思われがちですが、デザイン思考は社会のあらゆる場面で広く活用されています。単に新しいものやサービスをつくりだすのではなく、リサーチを行い、ユーザーのニーズをしっかりと把握した上で、情報を整理してデザインする。物事の本質を捉えて課題や問題を解決することが重要です。」

デザイン思考を身につけるには、理屈だけでなく、実際に手を動かしてみることが大事。体験してみて初めて気づくこともたくさんあるようです。参加した生徒からは、「考えるのは大変だけどアイデアを形にしていくのは楽しい!」「自分たちが住むまちについて考えるきっかけになった」「アドバイスを受けて自分に自信が持てた!」といった声が寄せられました。

自分たちのデザインで、自分たちが住むまちをより良くしていく。デザイン思考で切り拓く周南市の未来に期待が膨らみます。

 

03.インタビュー

山口県を代表するグラフィックデザイナーの一人、福永みつおさん。2022年3月、特別講師として周南市立岐陽中学校の2年生を対象に美術科の授業を行いました。タイトルは、「プロに学ぶデザイン思考」。子どもたちと一緒に周南市をPRするためのデザインに取り組んでいます。今回のプロジェクトを通じて感じたことや子どもたちに期待すること、周南市への想いなどをお聞きしました。

プロジェクトを通じてどんなことを感じられましたか?

生徒たちは、数学や国語の授業と同じように、自分が描いた作品が正解かどうかを常に意識しています。デザインは、絵の上手い下手ではなく、正解・不正解もない。これもいい、あれもいいという世界です。だから、「もっとこうすればシンプルになって伝えたいことが強調されるね」とアドバイスすると、生徒たちは「自分の考えは間違っていなかったんだ」と安心するようです。何時間もかけて描き込むことが良いことだと思っている人も少なくありません。単純化することは決して手を抜くことではありません。そこを子どもたちにいかに理解してもらうかが課題ですね。

今回、中学生と協働した率直な意見をお聞かせください。

教えることの難しさを痛感しました。子どもたちに理解してもらうためには、情報を整理して言語化することが必要。そういう意味では自分にとっても学びが多いですね。生徒たちと一緒に手を動かしながら、未知の答えに向かって学び続ける。「教える」「教わる」といった関係で終わるのではなく、そこから発展してお互いに「学ぶ」という姿勢が必要だと感じています。

デザインを学ぶことでどんな力が身につくと思われますか?

やはり合理的な思考ではないでしょうか。デザインは、リサーチをして何をどう選択するか、合理的な判断を何度も繰り返していくようなイメージです。アイデアやテクニックの要素が大きく、誰もが習得できるスキルだと思います。星の数ほどの商品やサービスが存在する今、社会の課題を解決し、選ばれる商品を開発したり、イノベーションを生み出したりする上でも、デザイン思考は非常に重要だと思います。

デザインを学んだ子どもたちに期待することは何ですか?

自分がつくったものに対して相手がどう思うか、10年後、20年後に社会にどんな影響を与えるのかを考える力を養ってほしいです。自分たちさえ良ければいいというのではなく、周りとの調和を考えながら、どう豊かに暮らしていけるかを意識する。そうした人が増えていけば、世の中をより良い方向に導いていけるはず。また、当事者感覚を持つことで、地域のリアルな課題に取り組めるようになるのではないかと思っています。プロジェクトを通じて、自分たちが住むまちに興味や関心、愛着や誇りをもってくれたら嬉しいですね。

福永さんは、さまざまなイベントを企画されていますよね。

クリエイティブな仕事を身近に感じてもらうために様々な分野で活躍するクリエイターをゲストにトークイベントを行う「周南デザイン会議」などのイベントを定期的に行っています。デザインに興味を持ってもらうためには、やはり活躍している人の話を聞くのが一番。関心をもつこと、好きになること、それに勝るものはありません。クリエイターの生の声を聞くことで、たくさんの刺激を受けてもらえたらと思っています。

地方におけるクリエイターに対する意識が高まっていきそうですね。

インターネットで情報も簡単に手に入る時代です。特に若い世代は、SNSを使ったビジュアルによるコミュニケーションが得意で世の中の動きに敏感。美的センスにも優れています。センスのいい人、センスのいいお店…デザインを切り口にして山口県内での人々の暮らしがより良くなっていけば、子どもたちが県外に出なくても良い環境になっていくはず。周南市はそのベースが出来つつあるのかなと感じています。

社会においてデザインが果たす役割とは?

人々の幸せのためにおしゃれなもの、カッコいいものをデザインするという役割もあると思いますが、私はやはり人々の暮らしを合理的かつ豊かにするということに大きな意味があると思います。みんなが遠回りしなくてもいい、美しい環境になる。もっと多くの人にデザインの面白さや素晴らしさを感じてもらえると嬉しいですね。

周南市のどんなところに魅力を感じていますか?

居心地の良さです。田舎でもなければ、都会でもない。買い物もしやすく、ちょっと車を走らせれば豊かな自然もある。必要なものは大体揃っているから、仕事をするにも、暮らすにも、ちょうどいいまちだと思います。

周南市で好きな場所や思い出の場所を教えてください。
やはり自分の事務所がある前の道のPH通りが好きですね。屋号名にも「PH GRAPHICS(PHグラフィクス)」と入れるくらいですから。カフェ巡りが好きであちこちに出掛けるのですが、おしゃれなカフェやアパレルショップがこんなに集中している通りってなかなかないと思います。店の入れ替わりもほとんどなく、20年位前からまち並みがほぼ変わっていません。電信柱もなければ、道路と歩道の段差もない。開放的で居心地がとてもいいです。

最後に、デザイナーとして周南市に期待することをお聞かせください。
せっかく素晴らしいものをつくっても、世の中とうまくコミュニケートできなければ売れません。そうした課題を解決するために、企業やメーカーとクリエイターとが一緒になって考えることができればいいなと考えています。うまくマッチングできれば、地域全体の活性化にもつながるはず。創造的な産地づくりやデザイナーの育成にもつながっていくのではないでしょうか。

 

04.関連リンク

インタビュアー:坂田 正明/ 記事:小野 理枝 / 写真:川上 優
執筆時期:2022年11月
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